



今から、約1250年前のことです。
一人の老婆が、関金宿(湯関村)の湯谷川で芋を洗っていると、みすぼらしい身なりをした一人の旅の僧が「その芋を少しわけてくださらんか」と声をかけました。欲張りな婆さんは、「この芋はなあ、見かけはうまそうなけど『エグ芋』といって、初めての人には口がいがむほどえぐうて、とても坊さんの口に合うものでは…」とていよく断りました。旅の僧は気にとめるでもなく笑みを残し、静かににその場を立ち去りました。しかしその笑みが、まるで相手の心を見抜いているように思われて、婆さんはするどい口調で、「何がおかしいんだ、乞食坊主めっ。こんなうまい芋を、お前なんかに食わせてたまるか」婆さんは、坊さんへのつらあてのように、芋をかじりました…。ところがどうしたことか、まさに舌もまがるほどえぐい。そんなはずはないと、ほかの芋を口にしてみましたが、次の芋も、次の芋も…。婆さんは気が違ったようになって、残った芋を全部谷川に投げ捨ててしまいました。
旅の僧はその夜、村の宿坊に泊りました。翌朝、谷川で顔を洗っていると、冷たい流れの中に湯けむりが立ち、ほのかなぬくもりがあることを感じました。
僧は霊感により、泉源の位置を示し錫杖を谷川に投げ込みました。その場所を村人が掘ってみると、温泉がこんこんと湧き出したのです。 それは、川底の砂粒まで見分けられるような、無色透明のきれいなお湯でした。
旅の僧は、宿坊の住職の請いをうけ、この地を訪れたしるしに錫杖を境内に立て、次の巡錫へと旅を続けたといいます。
旅の僧は、諸国巡礼中の弘法大師であったといわれています。僧が残した錫杖は、やがて芽をふいて巨大なはねりの木となりましたが、昭和の初めに切り倒されました。現在では、切り株を残すのみとなっています。婆さんが投げ捨てた芋は、今でも谷川に自生しており「関のエグ芋」として知られています。
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